GOH HOTODA氏: ワールドクラス・エンジニアのプライベートICONスタジオ
【DigiZine掲載ストーリー】
1980年代前半に、当時在住していたシカゴでアシスタント・エンジニアの職を得たGOH HOTODA氏は、マドンナやジャネット・ジャクソン、マライア・キャリーから、デヴィッド・サンボーン、マーカス・ミラー、さらには宇多田ヒカル、坂本龍一、NOKKOまで、世界中のトップ・アーティストのミックスやリミックス、プロデューサーを手掛けてきました。SSLに代表されるアナログ・コンソールに留まらず、デジタル・コンソールも積極的に活用してきた氏にとって、「コンピューターの進化に合わせて新しいコンソールを使っていく」ことが最も重要だったと語ります。「シカゴで仕事を始めた当時、既にNeveコンソールはビンテージな存在でした。それと比較すると、SSLのコンソールはそれほど良い音でないことも理解していましたが、当時のNeveコンソールに比べると断然クリエイティブなミキシングができました。サウンドは作るものであって、そのためにアウトボードを山のように用意していましたし、ハイファイじゃないものの方が、仕事がしやすかったですね」。
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オリジナル・ミックスを再現するリミックスが生み出したもの
シカゴ時代は、ゴスペルやジャズ、ブルースなど生楽器のレコーディングを行うほか、ハウス・ミュージックのプロダクションも数多くこなしていたと言います。「当時同僚だったアシスタントは、ハウス・ミュージックの人達が大嫌いだったんですよね。朝まで付き合わされたりするから(笑)。でも、僕は率先してやっていました。それで、一度DJに誘われてニューヨークへリミックスをしに行ったら、結構面白かったんです」と語るGOHさんは、次なるステップとして86年にニューヨークへ移ります。
「その当時は、オリジナルのエンジニアがミックスしたリコール用のデータをもとに、アルバムやシングルのミックスを一度再現した上で、それに新しいパーツを足したりしながらリミックスしていくという仕事もあったんです。リコールのシートを見て、元通りに再現するんですが、記載ミスも多かったですね。それだけでは元に戻らないことが多かったり、同じアウトボードが揃わなかったりするので、音を聞き比べながら5時間くらいかけて再現したりしていたんですが、それは勉強になりましたね。その後はハウス・ミュージック全盛になって、土台から作り直すようなリミックスになったので再現する作業も必要なくなりましたが、その時期にニューヨークにいて勉強できたのは良かったですね」。
こうしたミックスの再現のテクニックは、実に2,600万枚ものメガヒットを記録したマドンナの『THE IMMACULATE COLLECTION/ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ』のプロダクションでエンジニアリングを手掛けた際にも、存分に生かされたと言います。「以前からマドンナのリミックスをやっていたシェップ・ペティボーンが彼女と曲を作るときに、ミックス・エンジニアとして呼ばれたんです。それでマドンナの仕事をやるようになり、『エロティカ』を経て、『THE IMMACULATE COLLECTION』ではQSound (QSound Labsによるバーチャル・サラウンドのテクノロジー) を使ったミックスを作るために、オリジナル・ミックスの再現も行いました。そのオリジナルはまだSSLの無い時代のものなので、ミックスの資料も残っていないので、インストと歌ありのバージョンをDATに録ってして、マルチと比較しながら違いを調べてミックスを再現したんです」。
「例えばLRを逆相にしてモノで聞いて、タンバリンにどんなリバーブが使われているかをチェックするなど、いろいろ工夫しましたよ。当時のコンソールではエコー・センドの数も限定されていたから、3種類か4種類のリバーブ・・・・・・プレートとチェンバー、ホールやノンリニアを聞き分けられれば、あとはタイムを計ることで大体再現できるんです。そのミックスから、今度はモダンなスネアに置き換えたり、キックのバランスを大きくしたりするなど手を加えたから、オリジナルより良くすることができるんです」。
90年代後半にはさらなるクリエイティビティを求めて、Neveのデジタル・コンソールであるCapricornなども積極的に使用。その一方で、自らの作業用スペースも構築しますが、そこがメインの場所になることはありませんでした。「ニューヨークでは、リミックスのパーツを作るために仕事部屋を作って、そこでSound DesignerやADATを使って作業したり、その後でコンパクトなデジタル・コンソールを使って自宅スタジオを作ったりしたこともあったんですが、最終的にはスタジオのコンソールで作業をするので、結局は部屋を作ってもあまり使わないということになっていました」。
クリエイティビティを求めてプライベート・スタジオへICONを導入
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「最初はトライアウトのつもりでICON D-Controlを使ってみたんですが、その後で外のスタジオに行って仕事してみると、あまりにも“今”とかけ離れていると改めて感じたし、自分のところでやったラフ・ミックスの方が、パワーがあるんです。しかも、それはラフ・ミックスではなくて、さらに手を加えて仕上げることができるのだから、その方がいいのではないかと思うようになりました。どんなに面白い音楽を作っても、個性的にEQなどを使ったりしないと普通の音に仕上がってしまうので、当初はアナログのコンソールやアウトボードを使って、その結果をPro Toolsに入れることも考えていたんですが、再現性なども考えて、メインをICONにすることにしました」。
「このスタジオを作るのが5年前だったら、その段階でD-Controlがあっても、使わなかったかもしれないですね。それは、オーディオ・インターフェースがPro Tools|HDのハードウェアになってサウンドが向上したというだけでなく、ソフトウェアとの連携の向上という部分もあります。今のPro Tools softwareは、トランスポートを止めなくてもセンドを作ったりインサートしたりできるなど、フローの部分が優れているんです。もちろんフェーダーの感触も良いし、視覚的に全部を把握できるのがいいですね。マウス操作に限定されないので、例えばAPIのグラフィックEQは手で触って音を作るものだったけれども、ICONなら同様に作業できる」。
ICON D-Controlの機能で、特にGOHさんが高く評価するのが、フェーダー操作による慣れ親しんだ操作環境の上で、これまでのコンソールとは異なる次元のクリエイティビティを実現している点です。「カスタム・フェーダーは非常に便利ですね。ドラムやパーカッション、ストリングスなどのパート毎にカスタム・フェーダーを作って切り替えたり、8本のカスタム・フェーダーと通常のフェーダーを並べて使ったりすることで、アナログ・コンソールでクロスパッチしているように、16チャンネルを有効に使える。センド・レベルもフェーダーへフリップすることで、よりセンシティブにコントロールできると思います。それと、デジタル・コンソールで操作が難しいのがリバーブのかけ方で、かかり過ぎか、かかってないかのどちらかになりがちなんですが、フェーダーで上げ下げをコントロールできるのが便利ですよ。それに、人差し指に力を入れてマウスを操作する必要がないせいか、肩も凝らないですね。マウスを使うと、音楽的でないというか、どうしても緩急が付けづらいですね」。
ミキシング・エンジニアの観点で使用するデジタル・コンソール上のEQ
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また、興味深いのが、アナログ・コンソールとICONのようなデジタル・コンソールにおけるEQの使い方の違いです。「プラグインは、EQにはよく使いますね。デジタル・コンソールのミキシングがアナログ・コンソールと違うのは、アナログの場合は、他の音に負けないようにするためにコンプレッサーをかける必要があるんです。SSLのコンソールが便利だったのは、この音がちょっと負けているなっていうときに、そのチャンネルに用意されているコンプレッサーをかけると、音が前に出てくるところ。そうするとダイナミクスを殺してしまう部分もありますが、そこをフェーダーで緩急を付けることによって、コンプのかかった音を前に出して、さらに大きくすることができるんです。この辺は、ハイファイ指向のレコーディング・エンジニアの人と、ミキシング・エンジニアである僕とで考え方が大きく違うところだと思います。僕は制御されたものを上げ下げすることでダイナミクスを作るんですが、レコーディング・エンジニアの人達は音楽の持っているダイナミクスを全部生かそうとするから、レコーディングするところからすごく気をつけておかないといけないと思います」。
「デジタル・コンソールの場合は音が負けることはないので、並べ方だけなんです。アナログの感覚でコンプをかけても、その音が前に出るよりも、小さく平均的になってしまう。だから、僕の場合はコンプレッサーをあまり使わず、EQを使うんです。SSLプラグインのEQを使う場合も、コンプレッサーはCH OUTを使って、EQをかけた後で調整しています。これはAPIプラグインやNeveプラグインの場合も同じですね」。
ICON統合コンソールのオーディオ・インターフェースを使ってアウトボードをインサートする際には、D/A及びA/D変換などで生じる遅れを補正するため、システムへ搭載されている包括的な自動ディレイ補正 (ADC) 機能も利用されますが、その遅れが積極的に活用される場合もあると言います。「48 kHzで60サンプルぐらいだったら、その音が力強く前に出ていさえすれば、むしろどっしりとして聞こえることもあります。その音に重みが出るというか、周りが少し早いように聞こえるんですね。アウトボードを使うとノイズも増えますが、そうすると音が突然“バン”と出ないので、安心するという側面もあります」。
プライベートなスタジオで実現する“現代”のサウンド
また、スタジオ内にコンソールが存在することによる音響的な影響も、作業環境においては重要なことだということです。「コンピューターを目の前にしてスピーカーから音楽を聴くというのは、マスタリングの部屋ぐらいしかないでしょ? コンソールがあることで、ハイが強くなったり、低音がコンソールの下に溜まって響いてくるのを足元で感じたりすると、結構安心したりしますね。コンソールがあることで、左の音が右の音に被ったりする現象は必ず起こるんですが、これだけ乱反射している環境の中で音を整えていくので、その仕上がりはどんな環境でもしっかりした音になるんです」。
このスタジオで、布袋寅泰のDVD及び限定版アルバム『MTV UNPLUGGED』をはじめ、マーカス・ミラーの最新作『フリー』、Double『Reflex』など、既に数作品のミキシングが行われました。「マスタリングされて世の中に出た作品のサウンドは、ここでもBunkamuraでも、ヒット・ファクトリーでも変わらないですね。最近は自分のスタジオでの作業の方が多くなってきました。東京やパリのスタジオでも仕事をするし、そこで従来のアナログ・コンソールを使うこともあるんですが、サービス・パーツの供給が終わってしまった製品もあるし、もうサウンドも時代に合っていないかもしれませんね。ここでやった方が現代の音になるんですよ」。
そうした現代的なサウンドの好例が、最近このスタジオでミックスされたDoubleの最新シングルです。「ここでミックスしたものを実際に変換ソフトで携帯に送って聞いたりもしたんですが、このコンソールでミックスした音は、ハイファイ・スピーカーで聞いたときに良い音というだけでなく、それを携帯にダウンロードして聞いたときにも失うものがないんです。アナログ・コンソールでやると、どうしてもアナログの音になってしまうし、位相がズレることでハイファイ感が出たとしても、マスタリングして整えない限り、携帯でダウンロードしても、ほとんど聞こえない。そういえば最近、あるアーティストのミックスを東京のスタジオでやったのですが、それはアーティスト本人が“昔の自分の声がする”と言って、結局はこのスタジオでやり直しました」。
「今は、ICONを装備した他のスタジオとの新しいコラボレーションにも興味を持っています。誰もが使えるようなスタジオよりも、特別なスタジオの方がいいと思いますね。ICONと5.1スピーカーと、マイクプリぐらいがあれば十分だと思います。良いモニター環境があることが重要で、あとはそれぞれ自分の個性でスタジオを作った方が、いろんな人が来ると思いますよ」。
www.hotoda.com


